コラム

2024.11.03

とても危ない法律の誤解シリーズ① 賃貸借編

所長弁護士 當真 良明

Q.賃貸借契約書には、賃貸借期間の定めがあります。期間が経過しておりますが、明け渡しを求めることはできますか。

 

【質問】
私の父は豊見城市に100坪の土地(宅地)を有しており、10年前に,運送会社から頼まれて建物用地として、月額10万円で貸しております。

現在、当該土地には運送会社の倉庫兼事務所が建って

おりますが、私も結婚して家族ができたので、当該土地に自宅を建てようと考えております。幸い運送会社と父との土地賃貸借契約書では,賃貸借期間は10年間となっております。この場合、私の父は、運送会社に契約書のとおり10年での賃貸借契約終了を主張することはできるでしょうか。なお、この契約書を見ると定期借地契約ではないようです。

 

また、当該契約が駐車場用地としての契約であった場合はどうでしょうか。

 

【回答】
本件土地の賃貸借契約が、建物用地としての契約の場合、賃貸借契約の10年の期間の定めは借地借家法により無効となりますので、10年経過しても明け渡しを求めることはできません。

なお、本件土地の賃貸借契約が、駐車場用地としての賃貸であれば、契約書の期間は効力を有しますので10年で契約終了となり明け渡しを求めることはできます。

 

(写真は本文とは関係ありません)

 

【解説】
1 借地借家の相談
弁護士事務所での相談の中で、借地・借家についての相談も多数に上りますが,所有者側(賃貸人側)からの相談の大半は,現在の借地人・借家人に退去してもらいたいとの相談です。
その場合に、よくある法律の誤解が、賃貸借契約書の期間の定めがそのまま適用されるとの誤解です。
例えば、上記の設例の場合、定期賃貸借契約でない普通賃貸契約書では期間10年と定めているのであるから、賃貸借契約は10年で終了するのでないか、10年経過したら退去させることができるのではないかという点です。
通常の感覚で行くと、契約書に規定されているのであるから、契約書の約定のとおりになると思うのも分からないではないですが、これは誤解ですので十分注意して下さい。

2 借地借家法の規制
まず、借地借家法の性格から説明しますと,借地人・借家人(借りる側)を保護することを主たる目的とした法律(いわゆる社会立法)であり、借地人・借家人(借りる側)を強行的に保護する規定を多数設けているということです(借地借家法9条は「この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは,無効とする。」と規定しています。)。
その中の一つが賃貸借契約の期間についての制限です。
結論を言いますと,借地の最短期間は30年で、借地契約で30年より短い期間を定めても、借地借家法により30年に延長されます(借地借家法3条・同9条)。
従って、本件設例の場合も,賃貸借契約の10年の約定は無効となり,賃貸借期間は30年ということになり、30年経過するまでは明け渡しを求めることはできないことになります。

 

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3 終了に関する規制
それでは、30年経過した段階では,確実に明け渡しを求めることはできるでしょうか。
残念ながらこれも確実ではありません。
借地借家法は、30年経過するなどして賃貸借期間が経過した場合でも、更新が予定されており、所有者側に「正当の事由」がない限り更新拒絶はできないとしているからです(借地借家法第5条,第6条)。そして、「正当な事由」が認められるのはかなり厳しい要件が必要とされておりますので、更新拒絶はなかなか認められません。
結局、良く言われることですが、他人に土地を貸す場合は,半永久的に返ってこない可能性が高いというのが現状です。

4 返還請求できる場合
以上の規制は、借地借家法が適用される場合ですが、駐車場目的の場合(建物所有目的でない場合)は、借地借家法は適用されませんので、期限どおりに返還請求できます。
また、借地借家法が適用される場合でも、定期借地権の場合は,期限どおり返還請求することができます。
従って、土地を賃貸借する場合、これらの点を踏まえて,事前に良く検討した上で契約締結の是非を判断することが非常に大事になります。

 

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借地借家法(参照条文)

(借地権の存続期間)

第三条 借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。

(借地権の更新後の期間)

第四条 当事者が借地契約を更新する場合においては、その期間は,更新の日から十年(借地権の設定後の最初の更新にあっては,二十年)とする。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。

(借地契約の更新請求等)

第五条 借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。

2 借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする。

3 (省略)

(借地契約の更新拒絶の要件)

第六条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ,述べることができない。